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月猫通り2146号 訂正のご案内 (テーマ小説「神は頭上におわしまし」)

このたび月猫通り2146号に不備があることが判明しました。
購入して頂いた方には御不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ありませんでした。
テーマ小説:神父に含まれます『神は頭上におわしまし』において作品が途中で切れてしまい、ラストの部分が掲載されていない状態となっております。製本前の校正段階で気付くことが可能なミスでした。次回からはこのようなことがないよう、より正確な会誌製作に励む所存です。
今回不備がありました『神は頭上におわしまし』は、以下に全文掲載いたします。よろしければお読みください。
どうか今後とも変わらぬお引き立てのほどよろしくお願いいたします。

新月お茶の会会長 霜戸真広




神は頭上におわしまし
                 ササ





 自分の町がどういうものか知っていますか?
 そんな質問をしてきたのは、僕より五つ年上の家庭教師、カリンだった。その柔らかな笑みと頭の良さだけが取り柄みたいな彼女だが、押しの強さも中々のものだとそこで初めて知った。
「知っている。名前はカスガ。我が父、サンガ・カスガが納める領地で、総面積は……」
「そういうことではありませんよ、若様。数値などで町は測れないのです」
 得意げに答えようとした僕の口はがっしりと押さえられ、カリンは僕の顔を覗き込んだ。優しい笑みのはずがとても怖い。
 だから、
「明日のお勉強の時間は外に出て町を見てください。そしてそこで見たものを観察し、自分なりの考えを纏めて提出してください」
 という言葉に、ぶんぶんと首を縦に振ったのだ。

 ここから始めてみよう。
 そう思って僕がスタート場所に選んだのは家の近くの丘だった。今日も気持ちのいい風が吹いている。丘の上からは父が治める町が良く見えた。所々の家からは炊飯の煙がたなびいている。
 話で聞いた事しかない買い食いという行為を、せっかくなら試してみてもいいかもしれない。
 そんなことを思いながら丘を下っていった先に、風雨に晒されてボロボロな姿を見せる石造建築物が一つあった。バツ印を傾けて下の棒を伸ばしたような形のものが、ギリギリのバランスで屋根に刺さっている。
「確か……教会とか言ったか。宗教とかいう神様を信じる場所だったか?」
 何で昔の人々はわざわざこんな建物を作ったのか。神を信じるのに場所など関係なかろうに。
 そう考えながら、これは間違いであったのだと一人合点した。
「違うのだったか。神が現れたのは五百年ほど前の事だと、この前歴史の授業で習ったな」
 思い返してみると、偉そうに髭を撫でるカリンの神しか思い出せない。あいつは一々が偉そうで癇に障るのだ。
 心の中であかんべーとしてみせてから、授業で聞いた言葉を思い出す。
 受肉時代。
 それが五百年前を一言で表す言葉だ。ある日から生まれてくる子供の上に不定型な何かが現れた。文字通り頭上に、それも目に見える形で現れたのだという。初めは狂乱を生んだその出来事も、いつのまにかその存在が神と崇められるようになって終結した。
 今の世に生まれる人は、頭の上に神がいることが当たり前である。
 宗教とか呼ばれる神も廃れる訳だ。
 せっかくだから教会に入ってみることにする。
「今まで通り過ぎるばかりで中に入ったことはなかったな。げほげほ。少し埃っぽいな」
 外と同じ様にボロボロになった椅子が散乱している。ただ五百年前からあるとは思われないから、神が皆の前に現れた後にも集会所にでも使われていたのかもしれない。
 天井を見上げると、真っ黒になってしまった絵の残骸らしきものが見える。これがそうかは知らないが、古人はフレスコ画とかいうもので似ても似つかない神の姿を描いていたらしい。
 見上げたまま教会の一番奥まで歩いていく。そこは教壇のように一段上がっていた。
「ここで神父とかいうものが説教していたのか。えーと、カリンが言うには神父とは神に祈りを奉げるものだったな。ふむ。それなら今は世界総神父状態という事か」
 例外はもちろんあるけれど。
 カリンからの宿題のために、教会の中を少しスケッチしてから外に出た。
 町へと降りていくと、農作業に出かける者たちがいた。先頭の男の被った麦わら帽子の上には緑色の鍬の形をしたような神が鎮座している。他にも御結び型や、何かの花の形をしたものもいる。神は最初不定形だ。信者と共に成長して、形や色が決まるらしい。
 信者の信仰が糧なんだとか。
「おお、坊ちゃん。お久しぶりです」
「カリンの嬢ちゃんに尻に敷かれているって聞いておりますぞ」
「いや、そんなことないぞ。僕の方がカリンを引っ張っている」
 胸を張ってそう言うが、男たちは顔を見合わせて笑い出した。
 人好きのしそうな顔をして、この男たちはどうも僕を子ども扱いしているな。
「せっかくだ。僕にも農作業を手伝わせろ」
「え? 坊ちゃんにそんなことやらせたらご領主様に怒られちまう」
 と、殊勝な口を開きながら、男は頭上の神様に話しかけて僕のサイズに合わせた作業着を即座に取り出した。敬う気持ちが足りない気がする。
 昼ごろまでは農作業に従事した。昼食は誰かの嫁が持って来たお弁当だ。僕の顔ほどもあるおにぎりは流石に食べきれそうにない。
 畑を見下ろす場所で男たちとおかずの取りあいをしていると、そういえば授業で習っていたことで分からないことがあったのを思い出した。
「キッタ、カリンの授業で不作というものを習ったが、そんな物本当にあるのか? 僕は生まれてこの方そんな事態にあったことがない」
 キッタ――鍬の神を頭上に持つ男だ――は、少し悩ましげな顔をしてみせた。
 すっと指を伸ばして、一番端っこの畑から反対側の畑までを指さした。
「今は一面緑で一杯ですが、十年ほど前はほとんど何も育たないことがありました。あんときは余所から高い値段で仕入れるしかなくて、皆ひもじい思いをしたものです」
 その言葉に、周りの者も強く頷く。その時のことを思いだしたのか顔を顰める者や、自分の頭上にいる神に祈る者がいた。どうも冗談事ではないらしい。
「そうだ。あんときご領主様、あなたの御父上が税を軽くして食料を分けてくれなきゃ俺たちは今ここに居なかったかもしれない」
「そんなにか……」
 この緑輝く広い畑が全て荒れ地になっている様子など想像できない。
 どうやって不作を無くしたのだ。その問いにキッタ達は笑いながら、普段と変わらない空を指さした。
 いや、自分たちの上に浮かぶそれぞれの神を指したのだろう。
 つまるところ自分たちで頑張ったと、そういう訳か。またここで一つノートを埋めて、男たちに別れを告げると改めて町へと向かった。

「お、坊ちゃん」
「今日は一人でお散歩ですか」
「ありがたや、ありがたや」
 町へと入って行くと、僕を見た者たちから声をかけられるようになった。中には僕に対して礼をしてくる者までいる。
「これも父上の良き治世故だな」
 皆、活き活きと生活している。笑い声が絶えることなく、大きな諍いもない。人々の頭上にプカプカと浮かぶ神たちも、ご機嫌そうである。
 何気ないことではあるが、この状態が保たれるという事がどれだけ奇跡的なことであるかは分かるつもりだ。
「人の歴史は争いの歴史であると、カリンも言っていたな。ならばこの平和を大事にしないといけない」
 こういったことが大事なのかもしれない。ノートに纏めておく。
 そうして町の者たちと交流しながら適当に歩いていくと、そこには父上や僕が住む邸、町の中心部にある役所に続いてこの町三番目に大きい建築物が見える。何かあった時の避難所にもなっており、かなりの人数が収容可能である。
 家というよりも邸と言った方が実情的にはあっているかもしれないが、その名もマーサの家である。
「あら、若様。何か用かい」
 そう門の前で僕に話しかけてきたのは、この家を仕切っているマーサだ。大柄な彼女は質素ではあるが清潔な服を着て箒で掃き掃除をしている。目鼻立ちがすっきりとしており美人顔ではあるが、その豪放磊落というべき性格によって婚期を逃し続けている女性でもある、というのはカリンの言葉だ。
「そういえばうちのカリンは上手くやってるかい? あの子は頭は良いし優しい子だけど、あれで結構押しが強いからね。若様に迷惑をかけているんじゃないかと心配だよ」
 そんなこと言いながら、マーサは心配している様子など皆無な顔で笑っている。
 僕はわざと少し疲れたような顔を見せて、
「カリンに強引に家から追い出されたんだ」
 と泣き言を言ってみる。これで僕を可哀想に思ったマーサがカリンを叱ってくれると嬉しいのだが。
「ははは、やっぱりあの子は変わらないね」
 楽しそうにされるだけだった。その笑いに触発されたのかこの大きな家を見下ろすように浮かんでいた虹色の輪が綺麗に光った。
 あれはマーサの神である。
 神にもランクのようなものがある。普通は個人級と呼ばれ自分の頭上にのみ神が宿る。しかし家族級と呼ばれるほどになると、その人が家族であると思っている者たちにも神の加護が与えられるようになるのである。さらに上のランクになると、それはもう夢物語らしい。
 またランクが高いほど神の色が鮮やかになる。普通はキッタのように一色で、時に二色や三色もいる。カリンの神は白黒のフクロウだ。五色を越えると家族級と呼ばれ始める。この色は本人の功徳の量だとか数だとか言われているけど、はっきりしないというのが現状らしい。
 マーサの神はこの家族級であり、この家の中で生活する者たちを護っているのである。二柱の神から加護を受けている方がいいことに間違いはない。また家族級の神から影響を受けることで、影響下の者たちをよい精神状態にさせる効果もあるのだとか。
 端的に言えば、犯罪などへの抑止効果があるらしい。
「カリンがああなったのは、マーサの神の加護を受けているからじゃないのか」
「そりゃ、否定できないね。でもそれなら若様のせいでもあるかもしれないよ?」
 マーサはすこし意地悪そうな顔をした。いつのまにか箒を肩に担いでいる。箒を剣に変えたら、どこぞの傭兵様という風格だ。
 ふむ、それにしても僕の態度がいけないということなのか。
 そう悩んでいる時に家の方から声がかけられた。見てみると、数人の子供たちが手を振っている。そこに一人初めて見る子供を見つけた。
「また一人増えたのか?」
「ああ、クリュシュカだ。どこかの村を逃げ出してきたのを拾ったのさ。最初は私たちの事も怖がっていたけど、今じゃ仲良しだよ」
 マーサの家は託児所である。意外と子供好きなところがあるマーサが、なんとなくで始めたそれは、今ではこの町になくてはならないものになっている。
 そして同時に親を亡くしたりした子供を引き取るなど孤児院でもある。マーサ自身昔色々とあったからやっているのだと、マーサの家出身のカリンが話してくれたことを思いだす。
 我が家はマーサの家の子供たちを積極的に雇い、自立の手伝いなんかをしている。カリンもその一人だ。
 しかし僕がクリュシュカに目を付けたのは、それが理由ではない。
「あの子、神がいないのか……」
 俗に神なしと呼ばれる者たちがいる。数はかなり少ないものの、生まれた時に神を持たない者たちの事だ。多くは生まれた時に殺され、生き残った者も差別される存在である。
「ああ、それで村ではいじめられていたみたいだね。胸糞悪い。まあ、ここで数年も暮らせば大丈夫さ。この町にはああいう子をとやかく言う恥知らずはいないし、旅人も私の神を見たら何も言わないさ」
 家族級の神は家から離れても属神と呼ばれる神をその対象者に付随させる。クリュシュカの上にもそれはいるだろう。そしてその属神にクリュシュカ自身が糧を与え続ければ、自分の神とすることが可能なのである。
 マーサは神なしを救うためにお金にもならないようなことをしているのだ。
「そうだな。マーサには頭が下がるよ。ありがとう。父上に援助金を上げ……」
「おら、どの口がそんな子供らしくない事を言ってるんだ、あ?」
「にゃめほ。ひっぱふな」
 絶対カリンはマーサの影響を受けている。それを確信して、僕はまたプラプラと町を歩くことにした。ノートにマーサとカリンは良く似ていると書くことは忘れない。
 様々な建築方法で建てられた家を見ながら、町を散策する。あちらには茅葺き屋根の家があり、あっちにはレンガ造りの家がある。
 こんな景色も昔はあり得なかったものなのだろう。共通言語による全人種の相互理解が生まれたのも、神が人の頭上に現れてかららしい。元は神による統一言語への自動翻訳だったらしいが、五百年もたてば元の言語など消えてしまう。現在は神聖語が世界の共通語となっている。
 この現象によって人々は世界の様々な地域に散らばった。だから文化もいい加減に混ざり合ってしまっているらしい。
 それにそのころから高い建築物を建てるのをやめたのだったか。
「……高い塔を立てたら神聖語が失われるとか言う風説が流れたのだったな」
 そこから文明の逆転現象が起きたという話だった。
「ふむ、町を眺めると意外と授業で習ったことが身についているかどうか確認できるものだな」
 そんなことを思いながら、たこ焼きとか言う丸っこい物を買い食いする。アツアツでカリカリとした外側。歯を立てるとあふれ出す中身にたこのプリプリ感。
「美味い!」
 気付けばそう叫んでいた。カリンに黙って食べているというのがある種のスリルになっていて、それも美味しさを助長している。これもちゃんとノートに書いておかなければな。
 ふーふーとたこ焼きを冷ましながらあまり前を見ないで歩いていると、いつのまにか大通りから外れ薄暗い場所に入り込んでいた。
「これはやばいかもしれないぞ」
 どうにか抜け出そうとしてみるが、まるで迷路になっているかのように出られない。
 下に落ちている生ごみなどを極力踏まないように気を付けながら歩いていると、前への注意が散漫になってしまった。
 ぼふっ!
「あぁ?」
 誰かにぶつかってしまったようだ。頭の上からどすの利いた男の声が降ってきた。
「すまない。前方不注意であった」
 自分が悪い時はまず謝る。これは領主の息子であろうと、乞食であろうと変わらない真理だと父上が教えてくれたことだ。
 男はいきなり謝られたことに戸惑っているのか、ああ、とか曖昧に答えを返すだけだった。
 顔を上げて男を見てみると、驚いた。男は頬に髑髏の刺青を彫っていたのだ。
 身長は父上より少し高いほどで、男性の中でも高い部類であろう。顔は精悍で悪い雰囲気が伝わってくるが、それがどうも人を引き付けるといった男だった。
「俺の顔がそんなに気になるか」
 不躾に見過ぎただろうか。男が嫌そうにしながら、そう言ってきた。
 僕はぶんぶんと首を振った。
「いや、僕は今初めてやくざという生物を見て興奮しているのだ。この町にはもういないと聞いていたからな」
 僕はキラキラした目で男を見つめた。かっこいい。ずっと憧れていたやくざの実物がここに。
「生物って……つかその歳でよくやくざなんて知っているな、坊主。俺の頬の刺青見ても物怖じしねえし、変わった奴だ。……ほら行くぞ」
 男はそれだけ言うと、背中を向けて歩き出した。
 僕はぽかんとしていたけれど、
「ここから出してやるから、ついて来い。置いてくぞ」
「よ、よろしく頼む」
 どんどん進んでいくその背を僕は追いかけた。
 二人で進む間、僕は色々質問した。男はぶっきらぼうであったが、きちんと答えを返してくれた。見た目に反して案外いい男である。
 十年前まではこの町も裏通りは危険な場所だったらしい。浮浪者が溜まり、やくざ者が往来し、娼婦や男娼が軒を連ねた。娼婦や男娼が何かという質問には答えてくれなかったけど。
「まだ早い!」
 って怒られた。
 昔は本当に危なかったけど、今ではたまに危ない場所程度になったんだそうだ。元無法者たちは今では便利屋的な立ち位置で活動していることも多いらしい。そうは見えないけど、目の前の男がその元締めをやっているんだとか。
「何故十年前に変わったのだ?」
 その質問に男は今朝の農夫たちと同じように、しかし彼らと違って苦々しい顔で頭上を指さした。男の頭の上には髑髏の神様がからからと乾いた音を鳴らしていた。
「ほらここからなら帰れるだろう」
 男が立ち止まった場所は、一歩出れば大通りという所だった。
「ありがとう」
 そう言って僕が振り向いた時には、もう男の姿は無くなっていた。
 ここでのことも町の大事な一部だ。きちんとノートに纏めておこう。
 それからまた歩いた。みんなに話しかけられながらぐるぐると町を回っていると、気付けば夕方になっていた。僕はスタート地点にまで戻ることにした。
 気持ちの良い風が吹き抜ける丘の上。僕は草の上に座って、今日一日で真っ黒になったノートを見る。
 そこに数字は一つもない。でも町の良いところ、知らなかったところが一杯になった。
「やっぱりこの町が僕は好きだな……」
 十歳になって、それを再認識した。
 地面に背中を預ける様に倒れ込むと、そこには空だけが綺麗に広がっていた。神はそこにはいない。
 領主の息子でありながら、僕は神なしである。
 それは恥でしかないと最初は思っていた。
 皆は僕に何の隔意もなく接してくれた。それがどれだけ幸福な事か、この町以外を知らない僕には想像もできないけど、でもとてつもないことだっていう事は分かる。
 夕焼けに赤く照らされる町が、キラキラと宝石のように瞬いている。
「やっぱりこの町が僕は好きだな……」
 もう一度、感慨深くそう呟いて僕は立ち上がった。
 邸に帰ろう。
 赤や黄色、緑に青、時にはグラデーションになったりと忙しいいつもと変わらぬ空に、僕は背を向けた。

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Author:新月お茶の会
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