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『進め、前進せよ!』 by 只野胡椒

『進め、前進せよ!』
只野胡椒

 
 夏休みソビエト全土でピオネール(注:ソ連におけるボーイスカウト。成績優秀、品行方正の生徒しかメンバーになれない)のラーゲリ(注:キャンプのこと)が行われる。同じプーシュキン記念社会教育中学校に通うローザヴァ、ザラターヤ、チョールナ(順にピンク、ゴールド、黒)の三人は待ちに待ったラーゲリに胸が高鳴りながらも、全ソ少年少女の憧れの的であるピオネールの一員としての大きな責務に襟を正すのだった。
 ピオネール員であることを示す赤いネッカチーフを示すように誇らしげに胸を張って行進しながら、プーシュキン記念社会教育中学校のピオネールの子供たちは街の郊外の森に着いた。ここでラーゲリをするのである。彼ら彼女らは共に協力して雑草の生い茂る荒地を力強く開拓し、テントを立て、スープを作って肩を寄せて食事を取り、共に『ピオネールは木を植える』を歌った。三人も友人たちと楽しく時を過ごし、仲間との共同生活の素晴らしさを肌に感じるのだった。
 ある日、ピオネールのメンバーは森へとピクニックへと出掛けることとなったのだが、ローザヴァ、ザラターヤ、チョールナは皆とはぐれてしまったのだ。慌てて再合流しようとしたが、焦れば焦るほど道に迷ってしまい、とうとう洞窟で一泊することになってしまった。
 大きな不安に押し潰されそうになりながら冷たい地面に横たわったのだが、ローザヴァは少し離れて眠ることとなった。そもそもはぐれてしまったのはローチャ(ローザヴァの愛称)が遅れたのをふたりが待っていたのが原因だったからだ。仲間を困らせてしまった罪悪感にさいなまされつつ、それでもさびしさに人知れず涙を流すのだった。
 翌日、三人は森を歩いた。針葉樹の木々のざわめきと長く響くような何か得体の知れないの獣の声が聞こえていた。突然、チョーラ(チョールナの愛称)が叫んだ。
「もうたくさん! 早くお家に帰りたい!」
「チョーラ、落ち着いて、ピオネールはいつでも冷静沈着でいなきゃいけないのよ」ターチャ(ザラターヤの愛称)がなだめた。
「――わかったわ、こうしてわたしたちがピオネールに戻れないのは、誰かが邪魔をしているからよ!」
「何を言ってるの、同志チョーラ?」
「わたしたちを迷わせるよう、どちらかふたりが反乱分子なんだわ!」
「チョーラ、あなた疲れてるのよ。ほら、バナナでも食べるといいわ」
 その時だった。食欲をそそられるバナナの芳醇な香りが惹きつけてしまったのだろうか、巨大な熊が三人の前に現れた。チョーラとターチャは共に逃げ出したのだが、熊がその後を猛烈な速さで走り追いかけた。
「ここはわたしが食い止めるわ、その間に逃げて!」と、ローチャが熊の前に立ちはだかった。まさにソヴィエト的友情の素晴らしい一面だ。しかし、鋼鉄のように強靭な熊は吼え声をあげて、容易にローチャを吹き飛ばした。
「待って、ここは心を開いて接すればきっとわかってくれるわ」と、ローチャは英雄的な粘り強さで立ち上がった。ボルガの白鳥の翼のように両手を開いて熊を迎えた。しかしまたもやローチャは吹き飛ばされてしまった。
「きっと三人で力を合わせれば、この困難な逆境的状況もきっと打破できるはずよ」ローチャ、ターチャ、チョーラは共に手を握り、悪魔的と言っても過言ではない熊に立ち向かったが、やはり吹き飛ばされてしまった。まさに生命の危機的な状態だった。
 その時、熊が何かを踏み抜いた。すると、青い光が辺りを包み、地面が強く揺れた。熊は光に目を潰されて激しく苦悶に暴れた。ロシアの大地が大きく裂け、木々も飲み込まれていった。何が起こったのか分からなかったが、ともかく三人は危機から助かったのだ。
 ヘリが三人の前に降り立った。警察のヘリコプターだ。我らが誇るソ連警察は遭難の通報を受け、その優秀な捜査能力で見事三人の居場所を突き止めたのだ。
 三人はそのままヘリで警察署まで救助された。刑事は三人を牢につながれているある男の前に連れて行った。刑事が言うには、あの青い爆発は反ソヴィエト的思想を持ち、アメリカのスパイである反乱右翼テロリストが仕掛けたもので、それがこの男なのだそうだ。この男について何か知らないか、と刑事は訊いた。三人は誰も知らないと答えたが、牢の扉を開けられた男は何か言おうとした。それをローチャは男を踏み潰して黙らせた。
「さ、さあ、行きましょう」誰が見ても不審な挙動でローチャは帰ろうとした。
「わかった、ローチャが反乱分子のメンバーなんだわ!」愛国精神に溢れるチョーラは学校で習っているカラテのチョップでローチャを倒した。
「後は我々に任せてください」国家保安委員会の将校がローチャを黒塗りの自動車にのせて、去っていった。ローチャはおそらくルビャンカに連行され、愛国的な委員会が陰謀の全貌をきっと解明してくれることだろう。
 だから、子供たちよ。友人の間の結束はまさに何よりも美しいものであるが、その友人が反ソヴィエト的国家の敵だった場合は英雄的な勇気でもって大人(特に政府、党の関係者がよいだろう)に伝えよう。それこそが、ピオネール的な精神であり、真のソヴィエト少年少女の偉大さなのだ。

(更新者:西崎)
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