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多重人格探偵マタネコ VOL.1 ~九十億の館の御名~

多重猫格探偵マタネコ! VOL.1
ほんとうの新猫格小説なのが、これからわたしたちが書くものなの
by 空空出雲&石川亜米利&只野胡椒&簸上タケヒコ&etc

『吾輩は猫である』
 その一文を見て、私は近くの屑箱へ本を投げ捨てた。
「猫格……? 笑わせてくれる」
 私は本棚から一冊の本を取り出した。『新猫格』 全てはここから始まるのだ。

 呼び鈴が涼やかになり、来訪者を告げる。扉を開けると帽子をかぶった可愛らしい女の子が現れた。どうやら久々の依頼人の様だ。
「こんにちは」
 目を泳がせる彼女に、私は微笑みかけた。
「いい匂いです」
「イギリスから取り寄せたまたたびだよ」
 そう言って席を進める。早速依頼人の話を聞くと、彼女はおずおずと帽子を取った。 
『吾輩は猫である』
 そのフレーズが私の脳裡を横切った。小さな可愛らしい耳を揺すりながら、依頼人は切り出した。
「わたし、解決してほしいことが、探偵さんにあるの」
 おや、と思うところがあったような気がするが、先を促す。久しぶりに骨のある依頼ならよいのだが……
「猫を探してほしいのです」
 やや拍子抜けしてしまった。迷い猫探しか。しかし涙を滲ませる彼女を無碍に扱う訳にもいかないだろう。ともかく私は話を訊く事にした。
「お嬢ちゃんの猫はどんな猫なのかな?」
「……にゃ、にゃ」
「にゃ、にゃ……にゃるらとてっぷ」
 息が止まる。まさか再びこの名前を聞く事になるとは。ニコニコした笑顔を保持しながら、ソファに座り込む。そうか、また、始まるのか、あの混沌の日々が。
 依頼人の出て行った扉を見つめ、私はなんとか保っていた真面目な顔を崩す。笑みが止まらない。かつては私も一柱の神に数えられたものだった。そんなかつての血なまぐさくも懐かしい記憶。長い年月封印していた私のもう一つの顔。さて、今日の郵便を確認しよう。私はポストを開けた。と、一枚の便箋がすべり落ちた。封蝋がされた便箋の裏には書いてあったのはただ一言だった。
「読者諸君へ」
 どういうことだ。焦りを抑えきれず、震える指で便箋を開ける。中には手紙が一枚入っていた。それは実に簡潔な文章だった。
「読者への挑戦状 ここまでの部分で推理に必要な手がかりは全て晒した。さあ読者諸君、この連続事件の真相を当ててみよ。」
 私は混乱した。まだ何も始まってすらいないのだ。それなのに読者への挑戦状が既に届けられるとはどういうことだ。なにか私の与り知らぬ所で事態が進行しているのだろうか。私は届けられた手紙を詳しく調べた。
「……あ、住所間違えてる」

 その時だった。私は頭に強い衝撃を受けた。声を上げる間もなく倒れ込む。世界が暗転していく。意識が消える寸前、声を聞いた。
「やれやれ、危なかったにゃ~」
 全てが暗黒と化した。
――そして、もう一人の「わたし」 が目覚める、にゃ。
「まったく、久々に外に出れたのな」
「にゃあ久しぶり」
「おぉ、ニャルラトテップ。もう少し優しく起こしてくれな。頭が痛くてしょうがない……にしても相変わらず無貌な面してんのな」
「まったく、相変わらずうるさいにゃつ」
 

 その日、老若男女、国籍人種ばらばらな者三十人がパリ市内から姿を消すという事件が起きた。そしてマタネコはとうとうその重い腰を上げた。古めかしい壁掛けの電話をとった。
「ウェルダー警部に繋いでくれ。奴が来たんだ。俺の中からな……」
 マタネコは電話を切り、机の上に山盛りになった郵便物に対峙した。郵便物は全て招待状だった。30通の招待状。一角館から三十角館の招待状。パリで消えた30人はそれぞれのYAKATAにいるに違いない。まず一角館へ、そう思った矢先だった。
神は言っている
「一角形などないのだ」と。

仕方がない。まずは二角館だ。そう思った矢先だった。
神は言っている
「だから二角形などないのだ」と。

神は続けた
「三角館と十角館に行ってはならん」

 唐突な言葉だった。
「なぜだ?何を知っている?」
「それは言えない。言えないのだ」
 釈然としないマタネコだったが、とりあえずまずは三十角館に向かうことにする。足りないことくらいなんとかなるだろう。
「さあウェルダー警部、三十角館へ向かおう」
「しかし……いいのかい?」
「どうした、何か問題でも?」
「三十角館が何処に在るのかご存知で?」
「いや、知らないが、どこにあるのだ?」
「木星の衛星軌道上ですよ」
「……。」
「読めた!」
 猫格のひとり《安楽椅子探偵》が叫んだ。奴は出不精が高じて、調査前に全データを集める能力を身に付けたのだ。
「分かったぞ、三十角館の死体は5万年前に死亡している!」
「ついでにモノリスでもあるのだろうな」
 私は冗句を言った。
【三十角館の殺人】被害者はチャーリー・ガニメデ。27歳男チャド出身パリ大学院生(宇宙工学専攻)。15時頃カフェから消失(店員の証言)。木星衛星軌道上の三十角館で発見。死後5万年が経過(放射性同位元素法調べ)DNAも完全に一致した。


 そして一カ月後、探偵と犯人との関係はいたちごっこという糸に絡め取られていた。三十という膨大な殺人の量に対してクロックアップによる早期解決を図った探偵だったが、その意図は脆くも崩れ去る。それと同格の速さで、新たな殺人が起こったのだ。事件の発生と解決の間隔は、加速度的に狭まっていた。一ヶ月経った今、すでに1000万件の殺人と解決が繰り返されている。しかもその度に捕まる犯人は誰もかれもが逮捕と同時になにかしらの方法によって殺されている。実質の死者は2000万人だ。
 ウェルダー警部は鳴り止まない電話に溜め息をつき、力任せに電話線を引っこ抜いた。すでにこの件に関しては、パリ市警が介入できる範疇を超えている。こうしている間にも事件を解決し続けている猫格を思い、ウェルダー警部はサッシ越しに閑散とした通りに目をやった。ウェルダー警部は信頼のおける猫格探偵の顔を雲に思い描く。あの探偵に解決できなかった事件は今まで一つもない。おそらく今回も解決してくれるに違いない。だが、ウェルダーの瞼は重たくずり下がっている。
「このままでは、解決より早く、人類が滅ぶぞ」


 その頃マタネコは9864836角館にいた。鮮やかに事件の謎を解き、犯人を突き止めた彼は一息ついた。さすがのマタネコも疲労が蓄積していた。
「これじゃきりがないな」
 《安楽椅子探偵》が言った。
「私に考えがありますっ!」
 猫格の一人が言った。それは《アンチ探偵》だった。彼は探偵という役(ロール)から逸脱した思考を駆使できるという能力をもっているのだ。
「いいですか、マタネコさん。あなたはこのままではどこぞの極東人のようにカロウシしてしまいます」
「ではどうすればいいのだ?」
「思考を転換させるのです、マタネコさん。謎を解いてはいけません。大事なのは事件の解決なのです」
 そう、
「謎を解かない」
 それは探偵には許されざる禁忌の思考。
「事件を解決させるのは簡単なことなのです。それは思考してみればすぐにわかります」
「どういうことだ?」
 安楽椅子探偵は呟いた。
「安楽さん、世界には幾つのX角館があるのですか」
「俺のデータによれば地球には約7千万角館、可視宇宙には約25兆角館、可視宇宙外だとおそらく下限10^80角館、上限G(4)角館だが……まさか」
「そのまさかです。全ての殺人はX角館で起っています。なら、全てのX角館を破壊してしまえば殺人は止まり、事件は解決します」
「しかし、そんなこと俺達には不可能じゃないか!」
「私達には確かに不可能です。ですが」
「……奴か」
 マタネコが言った。マタネコはどこかへ電話をかけ始めた。数度の呼出し音の後、彼は言った。
「円周率は3ではない、3.14だ」
 それが合言葉だった。
「にゃんだい、頼み事かにゃ?」
 それはニャルラトテップの声だった。
「全てのX角館を破壊して欲しい」
「やれやれにゃ」
 受話器を置く間もなく、テレビの画面にテロップが流れた。――日本時間正午ごろ五角館に飛行機が墜落。生存者絶望か。国際テロ組織が犯行声明発表。――やってくれる。ニャルラトホテプの黒い腕は世界中に及ぶのだ。
 またもやテレビに特報が入った。1000角館が中国漁船と衝突して消滅したらしい。数時間後にはその衝突映像がユーチューブに流出した。犯人は10005938角館だとICPOが突き止めた時には既に10005938角館は神戸の海の藻屑と化していた。
 地球にいるマタネコ達には知る由もなかったが、その頃銀河系中心部のいて座A*にある8兆角館が突然重力崩壊して巨大なブラックホールと化し、銀河系の殆どの恒星諸共多くのX角館を飲み込んだ。人類がそれを観測するのは約3万年後のことになるだろう。


 ニャルラトテプの人智を超越した力を持ってしても全てのX角館を破壊するのは容易ではない。だがニャルラトテプは知っていた、全てのX角館を支配する頭脳角館(ブレイン)が存在することを。それを破壊すれば、全X角館は消滅するのだ。

 そして。

 その頭脳角館(ブレイン)こそは、月に存在している99999999角館だった。X角館を破壊する戯れにも飽きたニャルラトテップは片をつけるため、遂に月面に降り立った。だが、そこには……。

『多重猫格探偵マタネコ! 第一部 「九十億の館の御名」 編』 ~完~
(更新者:西崎)
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