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リレー小説第二回

 どうも、会計/坂下大吾です。
 リレー小説の二回目です。4800字くらいあるそうですが、好き勝手に書かせていただきました。一人称が「私」なのは新鮮ですね。ではどうぞ。

 

一回目

 部屋に戻ると、びしょ濡れのセーラー服からジーンズ姿に着替えて、ベッドに横になった。
「……ふう」
 頭を空っぽにして、力を抜く。浴室のほうから少女のたてる物音が聞こえるほかは、いたって静かだった。この1LDKには私と母親しか住んでいないし、その母親は仕事があって、毎日遅くまで帰らない。
 じっと寝転んでいると、考えはいやでも学校での失敗に向かった。
 きっかけはただ、昼休みにお弁当を食べようとしたことだった。鞄の中を探しても、お弁当の袋が見つからない。どこかに落としたかと思って、教室の中を見渡した。うちの高校には食堂がないので、クラスメイトの多くが教室で食事をとっている。その中のひとり、古手さんと目が合った。最も怖い女子のグループのメンバーだ。
 古手さんはにやにや笑いながら言った。
「あれー、どうしたの前原さん、何か探してるの?」
 笑いあう古手さんたちを見て、私は嫌な予感を覚えながらも、仕方なく質問に答えた。
「あの……お弁当箱を」
「お弁当? 誰か知ってる?」古手さんは隣の人にたずねた。「知らなーい」という返事が返ってくる。
「ああ、そういえばさっき変な箱が床に落ちてたなあ。中に生ゴミみたいのが入ってたから、とりあえず肥料にしようかなーと思ったんだけど」
 古手さんはいやらしい笑みをうかべて、教室の後ろを見る。私は急いで、壁際の棚のところに駆け寄った。そこには実験用の植物を育てるための鉢が置かれている。その中に、私のお弁当箱が逆さまになって入っていた。朝、自分で詰めてきた中身は投げ出され、すっかり土に汚れていた。
「まー確かに、あんなゴミみたいなのじゃ食べられないよね」
 後ろから、古手さんたちのグループの女子の声がした。
「まだ肥料にしたほうがマシだよねー」
 その後に続く笑い声を聞きながら、私は呆然と立ちすくんでいた。これまでほぼ毎日、古手さんたちからはこうした嫌がらせを受けてきた。そのたびに私は黙ってそれに耐えるようにしていた。下手に反抗したところで、何も良くなりはしないからだ。
 だが、今回はちょっとひどすぎるんじゃないか。土にまみれたお弁当箱を見ながら、私はそう思った。そして、それを口に出してしまった。
「何でこんなことするんですかっ」
 少しかすれたその声で、教室中が静まりかえった。古手さんたちも笑うのをやめた。そして、グループで一番体格のいい園崎さんが立ち上がり、私のところに歩いてきた。
「あんたさあ」迫力ある声が響いた。
「大声出さないでよ。うるさいんだけど」
 園崎さんは大きな手で私の左肩をつかんだ。手に力がこもると、骨が締めつけられるような痛みが走った。
「迷惑だから、どっか行きなよ」
 そのまま園崎さんは私の肩を突き飛ばした。私は床に尻餅をついた。園崎さんが席に戻ると、彼女たちはふたたび笑い出した。教室の中は何事もなかったかのように喧騒を取り戻した。私は床に座ったまま、左肩を押さえることしかできなかった。
 あれから五時間も経つというのに、左肩にはいまだに違和感がある。服をはだけて鏡に映してみると、一面が痣になっていた。ベッドの上で寝返りをうっても、肩に鈍い痛みが走る。
 やっぱり、あそこで声を上げてしまったのは失敗だった。どうしてあんなことをしてしまったのだろう。今まで通り、反抗したりせずにじっと耐えていればよかった。そうすれば、暴力を受けることもなかったのに。
 高校に入ってから二ヶ月、嫌がらせはずっと続いていた。上靴をゴミ箱に捨てたり、チョークを私に投げつけたりして、そのたびに彼女たちは笑った。何がおかしいのかはわからない。なぜ嫌がらせを受けなければならないのかもわからない。私が彼女たちに何かをしたわけでもないのに。
 私は何も悪くないのに。
 悔しい。
 恨めしい。
 そうした気持ちが声になって溢れてしまったのだろうか。とにかく私は失敗したのだ。もう、どうしようもないことだった。
 なんだか左腕が痛い。気づけば、私の右手は左手首を思い切り握り締めていた。爪の食い込んだところから、血が一筋流れ落ちている。慌ててそれを拭き取ろうと、ティッシュに手を伸ばしたときだった。部屋のドアがゆっくり開いた。
 部屋の入り口には、風呂場にいるはずの少女が、一糸まとわぬ姿で立っていた。
「あれ……どうしたの、シャワーは?」
 私は驚いてたずねてみる。だが少女は黒目がちな瞳でじっとこちらを見つめてくるばかりだ。
「何か足りないものでもあった? タオルとか、全部出しておいたはずなんだけど」
 やはり反応はない。私は少し考える。
「ひょっとして、シャワーの使い方がわからない?」
 すると少女はこくりとうなずいた。
「そっか、それじゃあ一緒に入ろう。教えてあげるから」
 私は立ち上がって、着替えを選ぶために、クローゼットの引き出しを開けた。少女は部屋の入り口に立ったまま、私のほうをじっと見つめている。この子はまだ、自分ひとりでお風呂に入ったことがないのかもしれない。体つきは七、八歳くらいにも見えるが、私はそのころ、ひとりでお風呂に入っていただろうか。覚えていない。
 引き出しを閉め、少女を連れて部屋を出ようとしたとき、彼女の背中が目に入った。そして私は気づいた。
 白くて小さなその背中には、一対の羽根が生えていた。
 黒い羽根だ。カラスのそれとは違って、艶のない、暗闇のような羽根。大きさは手のひらに収まるくらいだから、正面からでは見えなかったのだろう。アクセサリーのようなものではなかった。その生々しい質感は、直接背中から生えているとしか思えない。
 その場に固まってしまった私を、少女はどうしたの、というような目で見つめていた。ちょっと妙な子だとは思っていたが、まさか普通の人間じゃないなんて思わなかった。こんな事態に遭遇したことがない私は、どうしていいかわからず、固まり続ける。
 すると、少女はぶるっと体をふるわせて、くしゃみをした。
 ……くしゅん。
 そして小さく鼻をすする。
「ごめん、寒かったよね」
 ひとまず、ぶるぶる震えている少女を連れてお風呂場へと向かった。彼女は、普通の女の子とそんなに変わらないのだ。少なくとも、裸でいれば寒いというところは。違うのは背中の羽根と、少し無口なところだけで、そんなことは気にするほどでもないように思えた。
 お風呂場に入って、蛇口のレバーを切り替え、シャワーから温かいお湯を出す。
「熱すぎないかな。だいじょうぶ?」
 少女はかすかに首を縦に振った。私は安心して、シャワーを少女の肩から全身にかけていく。温かいお湯がしだいに彼女の震えを抑えていった。心なしか顔色も少しよくなったように見える。そのまま背中にシャワーを動かす。黒い羽根にお湯が当たると、少女はびくっと震えて逃げ出した。
「あ、ごめん」
 少し恨めしそうな目でこちらを見る。
「ひょっとしてこの羽根、敏感なのかな。ごめんね、私にはよくわからないから」
 それを聞くと、少女は私の後ろに回りこみ、背中をじっと眺めてきた。
「な、なに?」
「……はね」
「ああ。私にはないよ」
 再び、少女の身体にシャワーのお湯を当てていく。
「普通はないはずなんだけどね、私だけじゃなくて。あなたは、どうして羽根があるの?」
 たずねてみても、彼女はじっと黙ったままだ。
「うん、別に答えなくてもいいよ。言いたくないことって、あるだろうし」
 石鹸を手に取ると、タオルの中で泡立てていく。
「そりゃあ本当は、あなたがどこから来たのかとか、誰なのかってことは気になるよ。羽根の生えた女の子なんて見たことないもの。でも、あなたをこのマンションに引っ張り込んだのは私だし、教えてくれなんていえないよね」
 小さな身体を洗っていると、鏡の中に少女の目が見えた。何の表情もたたえていないような、黒い瞳だった。もし、この少女が普通に学校に通う生活をしているとしたらどうだろう。黒い羽根がついていたりすれば、周囲に気味悪がられるに違いない。ふつうの人にそんな羽根はないのだと、迫害されるに違いない。私の場合と違って、理由のある迫害だ。その理由が正当なものかどうかはともかくとして。
「……痛っ」
 石鹸を洗い流そうと蛇口をひねったら、シャワーのお湯が急に出てきて、左手首に当たった。もう血は止まっていたが、傷になってしまっている。
そのとき、少女の世話でうやむやなにっていた悔しさが、再びあふれ出した。今にして思えば、私はあんな暴力を受ける必要なんてなかった。私が反抗したから傷つけられたんじゃない。彼女たちが傷つけたから、傷ついたんだ。いま、私の左肩を目の前の鏡に映したら、痣がはっきりと見えるだろう。それはしばらくの間消えてくれないだろう。
 また、左手首の傷に爪が食い込む。シャワーのお湯と一緒に、新しい血が流れ落ちる。
 悔しい。
 彼女たちが、恨めしい。
 心の底からそう思った。
 気がつくと、少女の顔が私の左手のそばにあった。思わず、手首を握り締めていた右手を離す。少女は口を開くと、流れる血に舌をつけた。おいしそうな表情だった。
 彼女はそのまま左手首にかぶりついて、傷跡から血を吸い始めた。牙が刺さるかすかな感触。血が体外に抜けていく感触。
 それと同時に、私の中の別の何かが体外に抜けていった。それは先ほどまで私の中でたぎっていた恨みだった。行き場もなく、溢れそうだった恨みが、少しずつ少女の口内へ消えていく。頭の中がだんだん冷えていくようだ。
 ひとしきり吸い終わると、少女は満足そうな表情で口を離した。私の左手にはしびれのようなものが残っていたが、気にならなかった。嫌なものが身体から抜けてしまって、後には何だか愛おしい気持ちだけが残っていた。私は思わず少女の小さな体を両手で抱きしめた。腕の中から、彼女の温かみが伝わってきた。
「何だかわからないけど、すごく楽になったよ。ありがとう」
 私は少女の耳元で囁いた。
「そういえば、まだあなたの名前を聞いてなかったよね。よかったら、教えてくれないかな。私は前原瑞穂っていうんだけど」
 少しの間、沈黙があった。やがて彼女は無表情のまま答えた。
「……マリス」
「マリスちゃんか。漢字がわからないや」
 私は困って、とりあえず笑った。
「あ、ごめんね、勝手なことしちゃって」
 腕を開いてマリスを開放すると、再びシャワーを手に取った。
 頭を洗いながら気になったことがあった。マリスの体は、血を吸う前よりも少し大きくなっている感じがした。さっきまでは小学校に入ったばかりのような幼さだったが、今は高学年といってもおかしくない気がする。体だけでなく、雰囲気も少しだけ大人びたように思えた。いずれにしても無表情だから、よくわからないけれど。

 お風呂からあがると、一時間くらいかけて、簡単な夕食を作った。
小さいころから母親が仕事で遅かったため、私の料理の腕はちょっとしたものだ。マリスは無表情のままだったけれど、たくさん食べた。
 食後はいつも通り、テレビを見たり、宿題をしたりして過ごした。マリスは部屋においてあったマンガに興味を持ったらしく、大きな目を凝らして読みふけっていた。長い髪は邪魔そうだったので、後ろで一つにくくってあげた。
 九時を過ぎて、母親が帰ってきた。マリスには私の部屋に隠れるように言い含めた。ひとまず、彼女の存在は母親には隠しておくことにした。母は私が野良猫を拾ってきたときも飼うことを許さなかったが、マリスという少女はある意味で野良猫よりずっとタチが悪い。
 寝る前になって大事なことに気づいた。マリスの着ていた服と変な帽子を、洗濯機で脱水したあと、脱衣所に干したままにしていたのだ。私はさりげなくそれらを回収すると、見つからないよう自分の部屋のクローゼットに隠した。母親がお風呂に入る前に気づいて本当によかった。
 さて、いよいよ寝ることになったのだが、私の部屋にはベッドが一組しかない。仕方なくマリスは私と同じベッドで寝ることになった。少し窮屈だったけれど、マリスの体は温かかった。窓の外からは梅雨の雨が降り続く音がしていた。やがて私は眠りについた。

(瀬田宮くんに続く)
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非公開コメント

あれは伏線というよりムチャ振りではないだろうか。

 乙ですー。仕事早すぎますよー。



 ではワタクシは「学校での失敗」並列関係で出てた「友人から持ちかけられた相談」やらを回収しましょうかね。風呂敷をもうちょっと広げるかどうか迷うところですが。

マリス以外の声が脳内再生される件について。

前原さんもですか?

 無茶でしたか? いつか使えるだろうとか考えて(みんな放置したら自分で拾おうと思って)いたのですが。すぐに回収されたら伏線って呼ばないかも。
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